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レオンティウスとスコルピオスの話。
似た者兄弟。CP要素はありません。
暗めです。




 







 折角なので話をしましょう。
そう言って微笑む姿は、幼い頃とは違い、どこか達観して見えた。
満面の笑みから零れる無邪気な好意や、追いすがる指先が空を掻く淋しさは、もう其処には覗きもしない。
 
 
 「貴様と話すことなど何も無い」
「…正直に言えば、私も何と言っていいのか分かりませんが」
嫌悪を見せることはとっくに普通の行為に成り果てていて、だから何時ものようにそう切り捨てれば、何時もならば返ってくる拙い謝罪の代わりに、そう返答をされた。
薄暗い、狭い部屋。中央に安置された棺の傍らで、弟――レオンティウスと対峙する。
どうやら会話を諦めるつもりが、今日の弟には無いらしい。
スコルピオスが値踏みするように視線を向ければ、先程まで沈んで伏せがちだった琥珀の瞳が、明確な意思を持って兄を射貫いた。
「しかし、話しておきたいのです。後悔をせぬよう」
苦く笑う、その仕草がやけに板に付いて見える。それは、彼の人生に於いて、柔らかく微笑むだけでは済まないことが増えてきたということなのだろう。
例えば、勇者と称せられた父王、デミトリウスの死去。
例えば、――明日に迫る、戴冠の儀。

 
 デミトリウス先王が、賊の弓に貫かれ没してから、月が半分巡っていた。
晩年はその覇気も失せたとはいえ、豪放磊落さで名を馳せ、次々と他国を植民地に成していった名君の突然の死は、国に大きな混乱を齎した。
更に、蛮族の侵略を受け戦線を展開していた折でもあり、このままでは国家自体が存亡の憂き目に立たされることは、誰の目にも明白だった。
本来ならば、月の一巡りする間は、喪に服することになっている。
しかし、そんないとまが無い事を察したレオンティウス第一王子自らが、戴冠即位の儀式を早めることを宣言したのである。
そしてその儀は明日に迫り、
父の屍は、もう間も無く土の下に送られる。
 
 
 「今更怖気づいたとでも?」
「いえ。…怖くないと申し上げれば、嘘になりますが」
王座が伴うのは、なにも権力だけではない。それを利用しようとする者、簒奪しようとする者、命を賭けて守ろうとする者、命を握られている者、全ての意志がそこにこびりついて剥がれないのだ。王族に流れる血は、その尊さと同じ重さの責務を孕む。
レオンティウスは、少なくともそれを理解している。スコルピオスはそれを知りながらも、敢えて弟を詰る。それは戯れの駆け引きだが、解を違えれば毒針を突き刺すつもりで。―――否、むしろ、攻撃の機会を引き出す為に。
反対に、弟の方は知ってか知らずか、その切っ先を正確に弾き続けていたのだが。
 
レオンティウスは表情を引き締め、スコルピオスに向き直った。
対する兄も、薄く浮かべた冷笑を消した。凍りつくような空気が、束の間流れ、先に
口を開いたのは弟だった。棺に手を触れる。
「敬愛する父上から、受け継いだ玉座です。この身この命を捧げ、守り通します」
抑揚の無い声がそう宣言し、それから、ふっと鋭くなる。
 
「―――残念ながら、貴方にお渡しすることは、出来ません」
見透かしたような言葉に動じること無く、ただ少し目を細めてみせる。
静寂が狭い部屋をたっぷりと満たした。
 
 
父を屠った賊を操ったのがスコルピオスであると、レオンティウスは直感している。勿論、証拠が在る訳ではない。そんな失敗を兄が犯すとも思えなかった。
しかし、いつの頃からか、スコルピオスがレオンに対して隠すことすらしなくなった憎悪が、王位継承に根差していることは厭でも理解できた。
そしてそれを奪う為ならば、兄が手段を選ばないであろうことも。
 
だからだろうか。
だから自分は、兄にこんな事を言っているのだろうか。
レオンティウスは思う。
兄が自分に見せた憎しみに対して、自分が返した答え。
それが決別を齎すものであると、はっきりと自覚した上で。
 
 
 「…ふ」
暗い部屋に滲むような笑みを、スコルピオスが零す。
次いで歪められた口唇が、三日月形を描いた。
面白い、と言わんばかりに。
灼眼が、陰惨な光を灯して獰猛な色に染まった。
返す刀に突きつけられた刃のような言葉に、些かもその態度を揺らがせること無く。

「もとより其れは、私の物では無い。喜んで見下ろされようではないか――獅子王陛下」
くつり、喉の奥で笑う。
「そして、幾らでも貴様に使われてやろう。このアルカディアを統べる王の臣として。
 貴様が治める国が、どのような有様へ変わるのか――見届けてやるさ」
そして、と口に出さない胸中の思いが、恐らく弟へ伝わ
ることを思い、笑みを深める。
そして、――貴様の最期の瞬間までも、見届けてやろう。
 
「…有難う御座います、兄上。ご期待に副えるよう、尽力致します」
誓うような言葉は、しかし空しく消えていった。
声に出したやりとりの下に流れる言葉だけが、レオンの心に重く沈んでいく。
恐らく兄にも――それは確信めいた考えだった。
「私の期待になど応える必要はない。臣は王の道具だ」
「…それでも」
言いかけたレオンの言葉を遮るように、スコルピオスはかつりと踵を鳴らした。
それは殊の外大きく、そして続く足音も同じように響く。
「もう父上を葬る時間だろう。無駄話をしていないで準備をしろ」
言い放って、部屋を出て行く。
それは先ほどまでの冷酷さを少しも匂わせない、感情を殺した常の声だった。
扉が閉まり、一瞬だけ日差しに照らされた部屋に暗闇が戻る。
残されたレオンティウスは、ただ兄の赤い髪を見送り、そうして静かに瞑目した。
 
 
 
 幼い頃に、一度だけ、弟と似ていると言われたことがあった。
それが容姿についてだったのか、性情についてだったのかは全く思い出せないが、苦々しい思いと共に、ほんの僅か、誇らしい気分が残ったことは、憶えている。
自分にも、常に雷の加護とともにある弟と、同じ血が流れているのだと、そう言われたような気がして。
それが本当に稚い考えだと気付きながらも。
 
 そしてスコルピオスは、一つ皮肉げに笑った。
先のやりとりの滑稽さが、今更になって可笑しかった。
真意は語らない。上辺の言葉で相手を測る。
それは自分の専売特許だった筈なのに――いつの間に、弟にまで伝染ったのだろう。
おかげで、隠したはずの真意すら、お互いに伝わることになってしまった。
言葉にせずとも通じ合うような関係になった覚えはなかったが、しかし、そういうことなのだろう。
「…私に、似たか」
その計算高さも、臆病さも。
片や日陰者として、片や正統後継者として、真逆の道を歩んできた筈なのに。
これより土の下に眠る男が残した二人の繋がりは、血一つだけだというのに。
「―――呪いのようだな」
そして本心を語り合えない二人が最期に辿り着く場所を思い描く。
死者の冥福を祈る鐘の音が、音高く鳴り響いた。
 
 
 
 
似た者兄弟だからこそ、屠り合う運命に抗えない。
いつでも離れた場所にいながら、しかし近い想いを抱き続けた二人の道が、
終着点に向かって交錯しようとしていた。










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義理でも兄弟なんだからちょっと似たところがあっていいじゃない!
そしてそれに色々複雑な思いがあったらいいじゃない!
そんなかんじです。

暗くしようとしたら難しいっぽい単語が増えてもっさりした

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