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CP要素はありません。
よっぱらいの話。










 「無理だろ」
あまりにすげない一言に、なんでだよ!とローランサンは思わず噛み付いてしまった。

絶対に名案だと思ったのに。
言ったきり、開いた本から顔を上げもしない相方の腕を掴んで、ゆさゆさと揺さぶる。
「おい、シカトすんなよ」
「…」
本を離そうとせずに無視を決め込むイヴェールに、此方も意地になって、相手の体がぶれるほど揺さぶった。どう考えても本など読めないはずなのに、しかし相方は眉を顰めるだけで一向に此方を向かなかった。

 相手が本を読み出したら止まらない性質なのは知っている。だけれど、長時間かけて(とはいえ、二時間くらいだが)考えた作戦を一言で切り捨てられてそのままでは引き下がれない。
子供っぽいと自覚しながらも、ローランサンは更に本を引き剥がそうとする暴挙に出た。流石に驚いたのか、イヴェールの手が更にローランサンの手を剥がそうとする。
「イヴェール!」
「・・・煩えな」
振り払われてもめげずに続けると、イヴェールは観念したのか、苛立たしげに重い溜息を吐いた。
妙にテンションの高い相方を少し怪訝に感じたのかもしれない。
ばたんと乱暴に本を閉じて、眇めた目を向けてくる。
整った顔立ちをしているせいか、色違いの瞳に睨まれると、妙に迫力がある。普段は眠たげな顔をしているから尚更だ。

「で、何で俺の作戦がボツなんだよ」
しかし、すっかり慣れっこになっているローランサンは動じず、むすっとした顔のまま続きを促した。
やれやれとばかりに口を開いたイヴェールは、いかにも呆れた口調で言う。

「…なんでも何も無い。男が渡したら怪しまれるに決まってるだろうが」
「あ」

そうだった。
不機嫌顔から一転、口をぽかんと開けたローランサンを見て、イヴェールは再び深い溜息を吐いた。



 明日、2月14日、街では祭りが行われることになっていた。
男女の縁結びを祈る、ヴァレンタインデーの祭である。
もともとは古代ローマで行われていたという、豊穣の神パーンや、結婚の神ユノを祀る『ルペルカリア祭』の流れを、キリスト教が引き継ぎ、変型したものである。
そう大きくない祭りではあるが、夜店も出るし人手も増える。
恋人たちの日、ということで、他の祭りとはまた違った盛り上がりを見せるのだ。

 そしてここ数年、どこの誰が考えたのだかは分からないが、この祭りの日に、意中の人に贈り物を渡す、というのが流行ってきている。
相手が受け取り、贈り物を返せば、めでたくカップル成立、という訳だ。
恐らく言葉で告白する勇気の無かった少女か何かが考えたのだろうが、その流行に目をつけたのがローランサンだった。
祭りの晩には浮き足立って、警備も注意も薄くなることから、その日には仕事――盗賊稼業、だ――をしようと決めていたのだが、その作戦を練ってきたのである。

即ち、『祭りにかこつけて、睡眠薬入りの菓子を、金持ちの屋敷の門番に盛ろう』というものだったの、だが。


「・・・そうか・・・告白でもされながら渡されれば、舞い上がってその場で食うだろうと思ってたけど…女じゃないと意味ないよな」
「…むしろ何故そこに気づかないのかが分からん」
打ちひしがれたように大袈裟に肩を落とすローランサンに追い討ちを掛けるように言って、イヴェールは再び本を開こうとする。全く無駄な時間を割いた、とでも言いたげな仕草で。


しかしがばっと顔を上げたローランサンが、じゃあ女装しろよ!などと言い出したので、反射的に閉じてしまった。

「お…お前何阿呆なこと言ってんだ」
手酷くツッコもうとして、唖然とした脳はいまいちキレの無い言葉しか紡いでくれなかった。ローランサンは大真面目な顔で女装だよじょそう、と繰り返す。何故か目が据わっていた。
「お前顔良いし髪長いし丁度良いじゃん」
「そういう問題じゃ無いだろうが…やるなら自分でやれ」
「いや、俺は似合わないだろ」
「俺もだろ!」


滅多に出すことの無い大声で言うと、ローランサンはえー、と不満そうな顔をした。
「えー、じゃねえよ…もっとマトモな案出せ」
「十分マトモだろ。じゃあお前何かアイディアあるのかよ」
そんな切り返しに、イヴェールはむっと口を噤んだ。そこを突かれると痛い。
言い淀むイヴェールに、ほらな、とローランサンは何故か勝ち誇ったような顔をした。

「じゃあやっぱりお前が女装するしか無ぇだろ。大丈夫、お前綺麗な顔してるから」
「…ぶん殴るぞ」


なんでだよ!とまた騒ぎ出したローランサンを今度こそ黙殺して、イヴェールは三度本を開いた。先ほど栞を挟み損ねたので、続きの頁を探さなければならない。
ああだこうだと横で騒がれつつ紙束を手繰っても、苛々するだけでちっとも集中できなかった。
喉が痛くなりそうだが怒鳴りつけてやろうかと顔を上げてみると、キャンキャン吼えていたはずのローランサンは、眉を下げて少し困り顔のようだった。 


「…何だよ、そんなに残念だったのか」
「あーいや、そうじゃなくてさ…」
何故か歯切れ悪く言う相手を視線で促すと、しぶしぶといった風に口を開く。

「…俺さぁ、もう作っちまったんだよ」
「あ?何を」
「…す、睡眠薬入りの菓子」


 ぶはっ。
思わず噴き出したイヴェールに、ローランサンが顔を赤くした。
夕食後、宿屋の女将に何か頼んでいると思ったら、厨房を借りていたらしい。
「気、早すぎるだろ…っていうか、お前…お菓子作りとかするのか…」
堪えきれない笑いでくつくつと肩を揺らすイヴェールに、うるせーな!とローランサンが逆切れした。


「それで、作った菓子はどうしたんだよ」
「…アレ」
ぶっきらぼうに指差したサイドテーブルの上には、丸っこく白い塊がいくつか乗っていた。
粉砂糖で包んだそれは、

「トリュフチョコレート、ってやつか」
「おう。簡単だって女将さんが教えてくれた」
二皿に分けられたソレは、そう見栄えも悪くない。
しかしそんなことよりも、イヴェールは隣に置いてあるブランデーの方に視線を遣った。


「…ブランデー使ったのか」
「あ?あー、薬の味ごまかせるだろ。使うと旨いらしいし」
「飲んだだろ」

じっとりとした視線を寄越してくるイヴェールに、ぎくりとローランサンは背を凍らせた。
なんでバレた、と顔に克明に書いてある。
元々イヴェールのものだったブランデーを勝手に持ち出したのに怒ったのかと、ローランサンは思ったのだが、イヴェールは全く別のことを考えていた。
「…そうか、やけにテンションが高かったのも、こんな穴だらけの作戦立ててきたのも、それのせいか」
むしろ、アルコールを摂取したせいで、お菓子作りなんていう似合わな過ぎる行為に及んだのかもしれない。


納得、と一人呟くイヴェールの言葉が聞き取れず、なんで分かったんだよ…と恐る恐る聞き返してくる相方に、イヴェールはびしっと人指し指を向けた。
「お前は自分で思っているよりもずっと酒に弱いんだよ」
「な、何だよそれ!」
そう思って見れば、ローランサンの目元がいつもより少し赤い気がした。


呆れて溜め息を吐くイヴェールが、ブランデーを勝手に使ったことに怒っているのだと未だに勘違いをしているローランサンが、取り繕うようにサイドボードを指す。
「あ、そうだ。チョコレート余ったからさ、普通のも作ったんだ。食うだろ」
「食う」
相方の菓子作りの腕にも勿論興味があるのだが、実は甘党のイヴェールは即座に頷いた。機嫌が直ったといそいそチョコレートの皿を運んでくるローランサンが可笑しくて、小さく笑った。


 トリュフは思いのほか美味しかった。甘すぎず、酒が良い具合に香っている。
なんだかフルーツのような香りもしたが、味を邪魔せずむしろ引き立てていた。


「…美味い。お前、センスあるんじゃねえの」
「嬉しくねぇ」
自分も粒をぽいと口に放り込みながら、ローランサンは眉を顰めた。どうやら酔いも冷めてきたようで、段々彼のいつも通りのテンションに戻りつつある。
イヴェールは苦笑しつつ、ちらりと外を見やった。前夜祭などは行われていないが、もう大分夜も更けてきたというのに、通りはまだ賑やかである。皆浮かれているのかもしれない。 


「しかし、こうなると明日は正面突破するしかないか。門番とはいえ用心棒ひとりだ、お前の剣でどうにかなるだろ」
「そうだな…まあ声を上げさせずにさくっと気絶させれば―――」
そこまで言ったローランサンの肩が、びくっ、と硬直した。
何事かと同じように体を緊張させたイヴェールは、ゆっくり此方を見たローランサンの顔が物凄く引き攣っているのを見て、過ぎった嫌な予感を振り払おうとして失敗した。


「…おい、ローランサン。あのチョコレート、フルーツみたいな香りしたよな」
「すまんイヴェール」
謝罪にすべてを悟ったイヴェールの口の端が、ひくりと震えた。


「…薬入りの方食っちまった」
「ふざけんな酔っ払い!!」


 気づいた途端に狭くなっていく視界の中、イヴェールは手を伸ばしてローランサンを引っ叩こうとしたが、届かずに断念した。
ローランサンも力が入らなくなってきたのか、諦めたように椅子に座っている。

「あー…とんだ贈り物だ、お前、起きたらぶん殴る」
「はっ、それってお返しのつもりかよ…」


じゃあ両思いだな、という下らないローランサンの呟きを最後に、狭い部屋に沈黙が落ちた。


次の日、抜けない眠気のせいで、仕事すら断念する羽目に陥ったことは、これから毎年訪れる恋人の日に、二人の間で語り継がれるエピソードになったとか。

 






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一日というか数時間遅れてしまいましたが、開通&バレンタインデー記念です。
女性向けでは無いような、そうでもないような…
作品ごとに性格が変わってしまいそうな二人ですが、ロラサンはちょっぴり頭が弱いこなイメージです。

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