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CPありなしごた混ぜです。Menuからどうぞ
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CP要素はほんのり香る程度に。
体温と添い寝の話。




 







 酷く寝苦しい夜だった。

雨の少ないフランスには珍しく、ひどいスコールの直後だったからだろう。
暦の上ではとっくに秋だというのに、どっかりと腰を下ろしたまま消えようとしない夏の温度と、上空から降ってきてしまった湿度がもたらす、べたつく不快感が目を冴えさせる。

とろとろと浅く眠っては、自分の体温の移ってしまったベッドが居心地悪く、寝返りを打った拍子に目が覚めてしまう。
そんなことを何度か繰り返してから、ローランサンは眠るのを諦めようかと、半ば本気で考えながら目を擦っていた。
傘を差してもずぶ濡れになるような、しかも雨だというのに汗ばむような外に出るのが億劫で、今日一日は宿の中でのんびり過ごしてしまったのだった。
疲れていないのだから余計眠れないのだ。
眠気自体は薄っすらとやってくるが、細波のように引いていってしまう。

人生諦めが肝心。さっさと上半身を起こして、毛布を横に退ける。
少し起きておいて、眠くなったらもう一度寝よう。
さて、こういう時には冷たい水と暖かい紅茶、またはミルクのどれが良いのだろう、と欠伸をしていると、サイドボードを挟んだ窓際のベッドに横たわっている相方の姿が目に入った。

イヴェールは此方に顔を向けて、背中を少し丸めるようにして眠っている。
夢は見ていないのだろうか、身じろぎ一つしない。
「…なんで寝れてンだよ、こいつ」
今日一日、のんびり過ごしたのは彼も同じである。
いやむしろ、暑さに弱いとかなんとか宣って、料理も洗濯もそれから仕事の計画立てなんかも、何一つやろうとせずにごろごろしていたのだから、ローランサンよりも体力を温存していた筈、なのだけれど。
この暑いというのに、造りの良い顔はいつも通りに涼しげで、むかつく、と理不尽に腹を立てながら、ローランサンは暫く、イヴェールの寝顔に視線を留めていた。

…狭い部屋に、すう、すう、とイヴェールの呼吸の音が落ちる。
外の葉擦れの音だとか、虫の音だとか、そういったものがふっと静かになった瞬間だけ聞き取れるほどに密やかなそれを、何故か躍起になって拾い上げながら、ローランサンは知らず自分が息を潜めていたことに気づいて、嘆息した。
イヴェールの銀髪は、カーテンの隙間から入る月明かりを受けて、別世界のように冴えざえと光っている。
青白く照らされた彼は、まるで雪に閉ざされてしまったみたいに、冷たくて、硬い。
時間が止まってしまったようだ、と思う。
 
 
イヴェールはよく眠る。体力が無い訳でもないのに、深く、長く眠る。
眠っている間の彼は、あまり動かないし、呼吸も少ない。
眠りの浅いローランサンが夜中に目を覚まして何かをしても起きないし、寝言を言っているのも聞いたことが無い。
そして何より、冷たい。
…何かの拍子に、眠る彼の腕に触れた瞬間を、思い出す。
ぞくり、とするほど冷たい皮膚。
それはまるで 、
――死んでるみたいだ。
 
「――…、ったく、涼しい顔しやがって」
振り払うように乱暴に呟いて、ローランサンはゆっくりと流しへ向かった。
瓶に汲んでおいた水をなみなみとグラスに注いで、一気に飲み干す。
洗いものは明日の朝でいい。
シンクにそれを置き去りにしたまま、踵を返してまたベッドへ戻った。

膝で乗り上げると、弱ったスプリングがぎしりと呻いた。
安宿のベッドは少しへたばっているが、まあそれでも人間二人くらい支えられるだろう。
シーツが沈み込んだ方へ、イヴェールの首が少し傾く。
起きるだろうか、となぜか期待めいて顔を覗き込んでみるが、銀灰色の睫毛が一度震えたきり、また動きを止めてしまう。
仕方なしに、何も言わずに毛布を捲り上げてもぞもぞと入り込み、寝場所を確保するべく相方の体を無理やり押して端へ寄せた。
背中側から腰の辺りをぐいぐいと押していると、流石に侵入者に気づいた彼が、抗議の声を上げた。

「っにしてんだ、…サン?」
「…あぁ、生きてンだな、良かった」
「?…意味、わかんね…」

 驚きと疑問と眠気と呆れ、それからほんの少し怒りが混ざり合ったかすれ声が、静寂が満ちていた部屋の空気を少し入れ替えて、それに安堵のような感情を覚えながら、ローランサンは尚も強引にベッドに潜り込んだ。
面倒くさくなって観念したのか、イヴェールが少し動いて、ローランサンの為のスペースを作る。

「ガキじゃねぇんだから」
「いや、俺はまだガキだ」
「開き直んな……」
 
ぼそぼそ言いながら、またすぐに眠りへ引き摺られていくイヴェールの、むき出しの腕に触れる。
…冷たい。
しかし、手のひらを押し付ける。
じわりと、互いの体温が中和されていく。
――寝苦しい夜にはぴったりかもしれない。
「有効活用だ」
言ってみるが、イヴェールは早くも寝入ってしまったようで、返事が返ってくることはなく。
こちらも口を閉じて背中合わせに横たわると、思ったよりもずっと心地いい。

…温度が移りあうのを、背中で感じる。
一石二鳥だろ、と胸のうちだけで問いかけて、ひそやかに笑った。
この距離ならば耳を澄まさなくとも、相方の寝息くらいは聞こえる。
もしかしたら鼓動の音だって聞こえるかもしれない。
イヴェールの長い髪を下敷きにしないように気をつけながら、枕に頭を埋めた。

――…あぁ、生きてんだな、良かった。

試しに目を閉じてみると、眠りは案外あっさりと訪れて。
朝が訪れるのは、まだ少し先の話だ。









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寝てると死体みたいなイヴェールを見て不安になっちゃったローランサンのお話。
盗賊イヴェールも若干死に傾いた存在だと萌えます。

私が夜寝苦しかったので書きました。夏でも冷たい人が傍らに欲しい。
タイトルは某ボカロ曲から。ストーリー的には関係ないですが、PVを見てぱk…インスパイアされました。

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